相談室便り バックナンバー53
堂々巡りになったら… ~すべての悩みはフィクション?~
悩んでいるとき
試験前にあれこれ気になって集中できない、考えごとをしていて眠れない、勉強のやる気が出ないなどの相談を受けることがあります。その原因としては、友人関係や将来のことなど気になることがたくさん浮かんできて、頭の中で堂々巡りしてしまうことが挙げられます。
今日はあんなことを言ってしまった…と寝る前に一人反省会をしたり、明日うまくいかなかったらどうしよう…と心配事を抱えたりしたまま眠ると、脳が休まりにくくなって気疲れしてしまうのです。堂々巡りに陥ったとき、心を落ち着かせるにはどうしたらいいのでしょうか。
堂々巡り…祈願のために何度も仏堂などの周りをぐるぐる回ること。
同じようなことを何度も繰り返し、前に進まないこと。
フィクションを信じる力
世界的ベストセラー作家となった歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書「サピエンス全史」で、人類の歴史を考察しました。我々、人類はフィクションを語り、信じる力によって、爆発的に繁栄したと言います。たとえば「気をつけろ!ライオンだ」という意志疎通だけではなく、「ライオンはわが部族の守護霊だ」と現実に存在しないものを語る力によって、人と人が団結しやすくなったということです。
そして、科学の発展によって、神というフィクションに頼らず、無知に気づけるようになりましたが、科学の発展と国家の戦争やお金は切り離せないものであり、そのお金に翻弄されるようにもなったと言います。紙幣は紙に書かれた情報に価値があると信じることで成り立つわけで、一種のフィクションと言えます。人類はフィクションを信じる力によって栄えた半面、争いや悩みの種を増やしてきた面もあるようです。
これからの時代
また、人類の未来を予見した著書「ホモデウス」では、これからの時代はデータ至上主義になり、ビックデータが神のように人類を導くようになると言います。すでに私たちはわからないことがあると、スマホやネットの口コミなどのデータに頼るようになっています。国も企業も産業の発展のためにはデータ収集が求められており、私たちはカードのポイントや便利さと引き換えに多くの個人情報を提供しているわけです。そして、そのデータを管理できる少数の人間が神(ホモデウス)になるとハラリ氏は述べています。
AIやロボットが普及していく時代においては、無用者階級が生み出され、データを管理される側の人間は家畜のようになるとの指摘もあります。コロナ禍の現代においても、様々な情報が氾濫していますが、フィクションを作り出す側と、フィクションに踊らされる側の間での格差が広がりつつあるのかもしれません。
堂々巡りから抜け出すには
そのような悲観的な未来から抜け出す方法が書かれた著書「21Lessons」の中で、ハラリ氏は物語(フィクション)を生きるのではなく、ひたすら自分の心を観察する瞑想を勧めています。情報収集のツールや未来への道筋を機械やAIに頼ってばかりではなく、自分自身で真実を見抜き、自らの意志で決められる力が求められています。そのためには機械やAIよりも、自分自身のことをわかっている必要があり、そのために瞑想するということです。
いろんなことが気になって思い悩んだ時は、それが想像上のフィクションであることを認めること。そして、目を開けたままでいいので、あるがままの呼吸を感じながら、あるがままの気持ちや現実を観察してみます。そうすると、フィクションにとらわれた堂々巡りの状態から抜け出すことができると思います。