相談室便り バックナンバー55
落ち込まない秘訣 ~心の天気を晴れにする自然体~
落ち込みたくない・・・
寒くなり日が短くなってくると、気分も沈みがちになることはありませんか。最近、気持ちが落ち込まないようにするにはどうしたらいいかという質問を受けることがあります。たとえば、1ヶ月に1度、2~3日の間、気分が落ち込む時期があり、そういう時期をなくしたいとのことです。確かに落ち込んだときはしんどいですし、心が病んでしまったような気になるかもしれません。
そのように気分が落ち込みやすいときに、無理に明るく振る舞ったり、落ち込む自分を責めてしまったりすることがあります。また、カフェインで交感神経を高めたり、甘いお菓子で血糖値を上げたりすることで元気を出したくなるかもしれません。
ただ、一時的に気分を紛らわすことはできても、ネガティブな気持ちをごまかし続けていると、空回りしてしまいます。エナジードリンクやコーヒー、甘いお菓子の力に頼り過ぎると、依存的になってしまうこともあります。本来の力を引き出し、ネガティブな気持ちから抜け出すにはどうしたらいいのでしょうか。
ホメオスタシス
落ち込みがちな人にはある誤解があるようです。それは落ち込んではいけないということです。人間には身体が熱くなったら汗をかいて体温を調節するように、ホメオスタシス(恒常性)といって、心身のバランスを取る機能が備わっています。祭りの後の静けさのように、気分が高揚して盛り上がった後は寂しい気持ちになります。
気分が上がったり、下がったりするのは自然なことなのに「落ち込むのは心の病気である」「落ち込んでいる姿を人に見せてはいけない」と思い込んで、そのネガティブな気分にとらわれていると、余計に落ち込む時期が長くなってしまいます。ネガティブな気分を払いのけるのは、雲をつかむような話なのに、どんよりとした雨雲のような気分と格闘することで気力が奪われていきます。
動的平衡
生物学者の福岡伸一氏によると、あらゆる現象は乱雑さ・無秩序の方向にエネルギーが向かっていて、形のあるものは必ず壊れると言います(エントロピー増大の法則)。砂場に作った山は必ず崩れます。どんなに豪華なタワーマンションもやがては解体されます。生命体は自らを「壊す」ことで進化しており、永遠に形が残るものはないということです。
そして、生命の本質は要素と要素の「あいだ」で起きる相互作用であり、そこに生命が宿っているとして、それを「動的平衡(どうてきへいこう)」と呼んでいます。風邪のウイルスの流行も免疫力との相互作用によって、ある一定のラインで収束してきます。うつ病という心の風邪も心の免疫力=レジリエンス(回復力)によって落ち着いてきます。一見、立ち止まって悩んでいるようなときでも、生命は動き続けており、自然界のあらゆる現象がバランスを取って成り立っているわけです。
落ち込まないようにするには
そう考えると、気分が落ち込まないようにすることは、雨の日をなくすようなものかもしれません。どんよりとした雲が空を覆っていても、雨が降れば晴れ間が広がるように、悲しいときは涙を流せば気持ちは晴れてきます。雨が乾いた大地を潤すように、涙が乾いた心のオアシスになります。
日本独自の心理療法である「森田療法」の創始者、森田正馬は、心の回復のためには「自然服従」といって、気分にとらわれるのではなく、あるがままの事実を受け入れることの大切さを説きました。自然治癒力を信じて、自然な感情に心をゆだねることが、心の天気を晴れにする一番の秘訣なのかもしれません。
気分が落ち込んでいるときは、エネルギーをためているときでもあります。日が沈んでも眠っていればやがて朝日が昇るように、気分が沈んでもしっかりと心を休めていればやがて希望の光が差し込んでくると思います。