相談室便り バックナンバー57
いろんな見方を味方にしよう
~「リフレーミング」と「外在化」で変わる心の世界~
ネガティブなレッテル張り
「私はネガティブなんです…」と言う話を聴くことがあります。確かにネガティブな気分が続いてしんどいときは、そうやってレッテル張りをしたくなるときがあるかもしれません。しかし、ネガティブな部分にばかり注目して、凝り固まった見方しかできなくなると、自分のすべてが、人生のすべてがネガティブであるかのように思えてきます。
たとえば「自分はコミュ障」だからと決めつけて、人と接する機会を減らせば、コミュ力は伸びにくくなります。「自分はバカだから」と決めつけて、学ぶ姿勢を失えば、学力は伸びにくくなります。人は物事がうまくいかないとき、ある評価を下したり、理由づけしたりすることで、自分を納得させようとすることがありますが、自分=ネガティブになったときは、どうしたらいいのでしょうか。
リフレーミング
強力に貼られたレッテルをはがすには、絶対化した見方を相対化することから始まります。あらゆる価値や評価は比較の上に成り立っているので、相対化して見方を変えることができるからです。たとえば「コミュ障だから」と人との関係を断とうとする人は、1人でいられる時間を大切にし、他人に翻弄されない自立心を養っているのかもしれません。
「自分はバカだから」と思える人は、無知を自覚することで、謙虚に学ぶ姿勢を身につけているのかもしれません。長所と短所は表裏一体であり、見方を変えれば短所はそのまま長所にもなります。短所も長所も目立たない普通の人でも、悪く言うと平凡で取り柄がない人、よく言えば中立的でバランス感覚にすぐれている人と見ることもできます。
物事の見方は変幻自在です。短所を長所に変え、長所を伸ばすことができれば、相対的に短所は気にならなくなってきます。このように物事の見方をポジティブに変えていくことを、カウンセリングでは「リフレーミング」と言います。
*リフレーミング(reframing)…物事の捉え方(枠組み)を変え、違う視点から見ること
問題の外在化
レッテル張りを解くもう一つの方法に「問題の外在化」があります。たとえば「私は不安なんです」というときは、自分が不安そのものになってしまい、不安に飲み込まれやすくなっています。けれども、「私は今不安を抱えています」ととらえられれば、抱えている不安をこれから手放すこともできます。
「自分はネガティブなんです…」というときは、ネガティブな自分が問題なのではなく、ネガティブなレッテル張りをしていることが問題だと考えることができます。そして、そのレッテルをはがしていく方法やレッテルを張らない習慣を身につけられれば、ネガティブなお札の呪いから解放することができます。そのように抱えている問題を自分の内面から外に置くことで、ポジティブな対処につながってきます。
ポジティブな物語を作るには
そのような問題の外在化を活用して、ポジティブなストーリーを展開していくことを「ナラティブセラピー(物語療法)」と言います。自分がネガティブなのではなく、ネガティブな問題に困らされている状態ととらえ、どんなときにポジティブになれるのか、例外を探しながら、その問題を前向きに解いていきます。そして、自分の人生の物語をポジティブに作っていきます。
もしかしたら「私はネガティブなんです…」という人に対して、「ネガティブなレッテル張りをしている人」というレッテル張りをしていただけなのかもしれません。なぜなら、その人はネガティブな自分を自覚することで、耐性を身につけようとしていたのかもしれないからです。それはネガティブな自分を受け入れることで、ネガティブな気持ちに負けない心を鍛え、ポジティブな自分に生まれ変わっていく物語になります。
光があるから影があるように、影があるから光があります。人生を光り輝かせるには自分の中の影の部分(短所や欠点)を見つめ直し、いろんな見方を味方にできると、よりポジティブな世界観や人生観を持てるようになると思います。