相談室便り バックナンバー59
心の荷物を軽くする責任感
~みんなのSOSを集めよう~
抱える責任感
生徒の皆さんは不満や悩みを抱えているとき話せる相手はいますか?昨今、文部科学省は「SOSの出し方に関する教育」を推進しています。その背景には不満を口にせず、ストレスをため込んでしまう子どもが増えていることがあるようです。
不満を抱え込んでしまう人ほど「自分は甘えているんです」「人に迷惑をかけたくないんです」と言って、人を頼ることなく、一人で“心の荷物”を背負ってしまう傾向があります。一人で抱えることが責任感だと言います。しかし、不満や悩みを抱え込むだけでは、心の荷物を増やし続け、やがて背負いきれなくなったとき、その重さに押しつぶされてしまいます。そして、無責任にもすべてを投げ出してしまうことになりかねません。
増え続ける将来不安
そのように若者の心理的負担が増え続ける背景に、経済的な将来不安は無関係ではありません。奨学金を借りる大学生は半分近くになり、政府の借金や国民の税金は増え続け、物価が上がっても実質賃金は上がらず、経済的豊かさを実感できない国民のほうが多くなっている日本社会。一生懸命勉強してやがて働くようになっても、将来にポジティブなイメージが持てないという声を生徒から聴くことがあります。
日本のGDPは来年インドに抜かれて第5位になるとの予測があるように、確かに経済力は衰えつつあるのかもしれません。しかし、将来を悲観して、ただ不満を抱えているだけでは、自分の将来にも日本の政治にも反映されません。不満を抱えているときはどうしたらいいのでしょうか。
不満はイノベーションの源
国の経済が豊かになっていくためには、労働力(人口増加)や資本力(設備投資)の他にイノベーション(技術革新)が求められます。いくら多数の人や多額のお金というガソリンを注いでもエンジンがしっかりしていないと、経済成長のための推進力は生まれません。
その強いエンジンを持っている企業や国というのは、社会の課題を明らかにし、解決するための商品やサービスをイノベーションによって生み出しています。イノベーションを起こすためには、何が社会の課題になっていて、何が必要とされているのか、そのニーズをつかむことから始まります(必要は発明の母)。そして、そのニーズはみんなの不満や困りごとが元になります。
解決する責任感
一人で不満を言っているだけならわがままでも、みんなの不満を集めれば社会のニーズになります。心の荷物に押しつぶされて、すべてを投げ出してしまう前に、まずは自ら不満の声をあげてみること、そして、みんなの不満の声を集めてみることです。
そうすると、不満や悩みを抱えているのは自分一人だけではないことがわかってきます。不満は満足したい気持ちの裏返しであり、その欲望が資本主義経済の原動力になります。また、社会課題を解決したいという気持ちが探求のテーマや職業選択のきっかけにもなります。
そう考えると、一人で抱え込むのが責任感なのではなく、みんなが抱えている不満やSOSを共有して、解決に導くことが本当の責任感なのかもしれません。豊かな経済のエンジンを作り出すため、みんなが抱えている心の荷物を軽くするためにも、不満や悩みを口にしてSOSを出してみませんか。心の荷物を軽くする場としてカウンセリング室を利用していただければ幸いです。