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相談室便り バックナンバー67


出過ぎた杭は打たれない
~悔いのない学校生活にするために~

 

 

 

周囲の目が気になる…
 
 みんなが遊んでいるときに自分だけ勉強していると浮いてしまわないだろうか…。みんなが盛り上がっているのに自分だけ笑わないとノリが悪いって思われないだろうか…。周囲の目を気にして、やりたいことがやれなかったり、愛想笑いをしたりして、自分らしくふるまえずに悔やんでいるという話を聞くことがあります。多数派にいると大船に乗ったような安心感がある反面、同調圧力によって息苦しく感じることがあるかもしれません。
 思春期になると自意識が高まってきて、他人と自分を比較して、性格や能力、容姿など気になることが増えてきます。それは自分を見つめ直し、バージョンアップするために必要なプロセスになります。しかし、周囲の目を気にしすぎて、同調圧力に押しつぶされそうになった時はどうしたらいいのでしょうか。


 
 空気と恥が支配する? ~文化人類学の視点~
 
 そのような同調圧力の原因として、社会文化的要因を挙げることができます。文化人類学者の山本七平は著書『空気の研究』の中で、日本社会における「空気」という見えない力が、人々の判断や行動を左右していることを指摘しました。
たとえば、組織の中で不正に気づいても黙っていた人に、なぜそのとき声を挙げなかったのか問うと、「そんなこと言える空気じゃありませんでした」と答えるというのです。そこでは論理的に導き出された倫理基準よりも空気による判断が優先されています。
 また、戦時中、日本人の国民性を研究した米国のR・ベネディクトは著書『菊と刀』の中で、欧米人をキリスト教的な背景に基づく「罪の文化」、日本人を集団生活における「恥の文化」であると分析しました。日本人は他人からどう評価されるか(恥をかくか)を基準にして行動する傾向があると言います。
 空気や恥によって、自分がしたいことや正しいと思っていることができなくなっているのだとしたら、空気を破って恥の意識を乗り越えられると、新境地を開拓できるのかもしれません。



 
 
無責任な責任感 ~社会心理学の視点~
 
 周囲に合わせることで協調性を育み、個人の責任を軽減することができますが、度が過ぎると、個人の権利や利益よりも集団、国家の利益を優先する考え方につながることがあります。それを全体主義と言います。
 戦時中、ユダヤ人を強制収容所に連行して迫害したナチスドイツの集団心理を研究したE・フロムは著書『自由からの闘争』の中で、人は孤独や不安を抱えたとき、自由に耐え切れず権威に委ね、束縛されることを望む傾向があることを指摘しました。
 また、H・アーレントは著書『全体主義の起源』の中で、ナチスの親衛隊で中心的な役割を果たしたアイヒマンの裁判を傍聴した際、その人柄について、出世欲のある平凡な小役人だったと指摘しています。つまり、自ら考えることを放棄し、真面目に上司の命令に従うような人が巨大な悪に加担してしまうことがあると言うのです。みんなが乗っている大船だから大丈夫かと思いきや、思わぬ方向に流されてしまうこともあるようです。


 
AI時代の人間らしさ 
 
 AIの時代においては個人データの収集や管理が求められ、全体主義的な管理社会に移行していると指摘する専門家は少なくありません。また、多くの人がAIに答えを求めて、自ら考えることを放棄してしまうと、人間自身がロボット化してしまう恐れがあるといいます。
 様々な意見を話し合えるのが民主主義であり、自分の気持ちを表現できるのが人間らしさだとしたら、自分の考えや気持ちをしっかりと伝えられる人が、今求められているのかもしれません。そして、たとえ少数派にいたとしても、物事を論理的に判断し、真理を追究していく人が社会のバランスを整えてくれます。
 終末医療のホスピスで働く人が、患者さんから耳にする話で多いのが「もっと自分らしく生きればよかった」「もっと気持ちを素直に伝えればよかった」だそうです。出る杭は打たれるけど、出過ぎた杭は打たれません。出ないと悔いが残ります。出過ぎた杭になることで漂流しそうな大船をつなぎとめることができたら、周囲の目は尊敬のまなざしに変わってくると思います。







 

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