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ヒポコンドリー社会での「護心術」
現代社会は不安だらけ??
戦後から殺人事件は減少し続け、医学の進歩とともに平均寿命は長くなり、死や病に至る不安材料は減ってきています。しかし、心の病や不安を抱える人は多くなっているようです。森田理論によると、不安を抱えやすい人の特徴として、ヒポコンドリー気質があげられます。
ヒポコンドリーとは心気症と呼ばれるもので、もし病気になったらどうしよう、あるいは、もし死んでしまったらどうしようという不安がつきまとい、過度に健康に気をつかったり、その不安と戦ったりすることで、気疲れしてしまうことです。ヒポコンドリー気質は多かれ少なかれ誰もが持っていますが、身体的な健康に気をつかうことも、度が過ぎると返って精神的には不健康になることもあります。
小さな不安が大きくなる
ニュース番組や健康法の番組などを観ていると、おどろおどろしい効果音とともに、あなたの身近で怖い事件や深刻な病気が起こるかもしれないと、不安をかき立ててきます。見るからにこわもての人よりも、一見優しそうな人が恐ろしいことをするかもしれない…とワイドショーは伝え、ふだん気がつかない所に汚れや雑菌が潜んでいる…と洗剤のCMは訴えてきます。
差し迫った目に見える恐怖よりも、漠然とした目に見えにくい小さな不安をクローズアップし、ふだん気がついていない潜在意識に働きかけることで、死や病への不安をかきたてて、視聴者にインパクトを与えようとします。
護心術を身につけよう
情報化社会においては、日本中のニュースが飛び込んできて、日常で頻繁に事件が起こっているような錯覚をもたらしますが、統計的には最近の日本においては、殺人事件で死ぬ確率は先進国の中でも極めて少なく、1日辺りおよそ2人弱です。一方で、交通事故死は17人、自殺で死ぬ数は80人にも及びます。
殺人や事故で命を落とすよりも、うつ的になり、絶望感から、自ら命を落とす確率の方が高いのです。身体的な痛みよりも心の痛みの方を感じる機会が多くなり、心が傷つきやすい人が増えているように思えます。このような社会においては、無意識の不安に訴えかける情報やストレスから、自分の心を守る術を、つまり、護身術よりも「護心術」を身につけることが大切になってくるでしょう。
自分の心を守るには
それでは、どうすれば人々を不安にさせる情報から自分の心を守れるのでしょうか。そのためには、まず、正確な情報を選ぶことです。何が本当に大切な情報なのか、真実を見極めること。何でも鵜呑みにするのではなく、かといって疑心暗鬼になるのでもなく、ありのままの情報をとらえる。そして、ある情報を絶対視せず、統計的・科学的な視点で客観的に、他の情報と比較してみることです。
社会心理学では、ハロー(後光)効果というのがあります。ある分野で権威のある人が伝えた情報は、正しいと思い込んでしまう現象のことを言います。その権威とは、①他のものを服従させること、②ある分野において優れていると信頼されていること、の二つの意味があります。
ある情報に翻弄(ほんろう)され無意識に従うのではなく、不安と向き合いながら、皆でより確かで信頼される情報を選び抜き、それを共有していく。それが安心につながると思います。心の健康を守るためには、情報はただ受け取るだけではなく、自ら選んでいくものですね。