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アイデンティティって何?
あなたは何者?
「あなたは何者ですか?」と聞かれたら皆さんはどう答えますか?高校生なら生徒手帳を見せて「高校生です」と答えるでしょうか。自分の存在を証明するには、職業や身分だけではなく性別「男です」とか、名前「太田です」とか、国籍「日本人です」とか様々な答え方があります。そのように自分の存在を証明することをアイデンティティと言い、わかりやすく言えば「それがあって自分とわかるもの」という意味です。私なら「臨床心理士」としてのアイデンティティが強いかもしれません。
職場や学校で自分の居場所を感じられない…浪人生になって自分の存在を説明しにくい…といったとき、人はアイデンティティの混乱や葛藤を感じることもあります。
異なる色や味を取り入れてみる
そのアイデンティティを形成するためには、「同一化」といっていろいろな人の考えや価値観、文化を吸収したり、自分が所属しているコミュニティに思い入れを持ったり、モデルとなる人になりきってみたりすることで、人間性や生き方、考え方を自分の中に取り入れていきます。
つまり、色々な色に染まってみたり、混ぜ合わせてみたりすることで、自分のパレットに自分らしい色を作っていくわけです。様々な経験を味わうことで、自分の持ち味を作っていくわけです。
例えば、あなたが沖縄出身なら沖縄の民謡を覚えたり、その郷土料理を覚えたりすることで、沖縄県人らしさが身についてくるかもしれません。あなたが高校生なら仲間と助け合いながら、部活や勉強にエネルギーを注いでいくことで高校生らしさを実感できるかもしれません。そうして出来上がってきたものが自分らしさや個性になってきます。
自分探しとは
「自分探しの旅」というのがありますが、旅先での自分が好きで、現地で仕事をしたり帰化したりする人もいるかもしれませんが、むしろ異国の地に行くことで、改めて今の自分を強く意識するようになり、相対的に新たな自分を発見することの方が多いようです。
アイデンティティの形成には、「帰属意識」といって、所属意識や連帯感のようなものも必要になります。無人島で「俺はこの島の王様だ~!」と叫んだところで、認めてくれる人がいなければ裸の王様です。「私はみんなに愛されるアイドルよ」と吹聴したところで、ファンがいなければ普通の人です。自分と社会は切り離せないものであり、アイデンティティの確立というとき、安定した職業や役割を担い、それを他者に認められるようなって、社会とのつながりの中で定義されてきます。
だからといって、周囲の目を気にし過ぎることで、自分らしさを見失ってしまうこともあります。芸術家の岡本太郎氏によると、周囲に気に入られようとすることはコンプレックスがあるからで、真のプライドというのは「俺は俺だ」という「絶対感」であるとのこと。他者と比較した自分よりも、自信を持って、このままの自分でいいんだと思い切ることも必要かもしれません。
世のために人のために
これまでに作り上げてきた自分の色や持ち味を、社会の一員として表現していくことで、自分の存在を認めてもらうことで、自信を持てるようになってきます。人は自分のためにだけ生きることほどむなしいものもありません。自己満足を超えたところに感動があるように、アイデンティティを確立するためには、人が喜ぶことをしてみるのをお勧めします。
部活やチームの一員として尽くしてみる、クラスのために文化祭で一役買ってみる、そういう体験をしていくことで、高校生としての思い入れやアイデンティティはより強くなり、卒業するときには、それを失う寂しさを味わうこともできます。
映画「魔女の宅急便」では、主人公のキキが、新しい街で戸惑い、魔女としてのアイデンティティに葛藤しながらも、その街の一員として自分の持ち味を発揮し、認められる体験をする中で、やがて自分とその街が好きになっていく様子が描かれています。アイデンティティの確立という観点でこの映画を観てみると、また面白いと思います。