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広めたい信頼と賞賛の輪
賞なき社会
最近、ニュース番組を見ていると、キャスターがため息混じりに「日本はどうなってしまったのでしょうか」「治安が悪化し、犯罪が凶悪化している中で…」などの枕詞をつけての暗い話題を多く耳にします。確かに経済は活気がなくなりつつありますが、犯罪事件は果たしてどうなのでしょうか・・・。
犯罪白書によると、平成19年度の殺人の認知件数は戦後最低であり、映画「三丁目の夕日」の舞台になった古き良き昭和30年代と比べると半減しています。日本は先進諸国と比べても極めて低い数値です。薬物問題については、大麻はやや増えているものの、覚せい剤やシンナーなどの検挙数はかなり減少しております。このように犯罪が減っていることは大ニュースであり、警察の努力も評価されていいと思います。
ところが、マスコミは暗いマイナスの部分を取り上げ、人々の不安をあおり、センセーショナルな話題を提供することで、視聴率を稼ごうとしがちです。最悪の状況を想定しておくのは危機管理において大切なことですが、暗い話題がさらに暗い話題を呼んでいるような気がするのは気のせいでしょうか。
応用行動分析学のススメ
心理学の応用行動分析学の考え方では、好ましい点に注目することで、その行動は増えていくと言われています。たとえば、落ち着きのない子どもに、「あなたは落ち着きのない子ね(怒)!」と叱ったところで、毎日そのような注意をされていたら、自己暗示にかかり「僕は落ち着きのない子なんだ…(涙)」と自信をなくしてしまいます。
それよりも24時間の中で、たとえ少なかったとしても、落ち着いて取り組めたときに着目し、「よくがんばっているね」と、ほめて強化すればその行動は増えていきます。逆に、好ましくない行動に対しては、きちんと制限を与えるならよいのですが、注目することによってよけい増えてしまいます。人は欠点を直すために欠点を指摘しがちですが、それでは改善するための肯定的なイメージを思い描くことはできないでしょう.
心配から信頼へ
抱えている不安が大きいときほど人は心配しがちです。心配は「~できないのではないか」というマイナスの状況を想定しています。一方で、信頼は「あなたなら~できる」というプラス暗示になり、言われた方は自信を持てるようになってきます。
自信とは自分を信頼することです。人に信頼されて育った子は自信がもてるようになってきます。人の欠点や短所に注目しているだけでは、不信感ばかりがつのって、人間の能力や活力の源となる信頼感を奪ってしまいます。社会全体が不安になっているときこそ、プラスの面に注目し、信頼の芽を育てたいものです。
信頼と賞賛の輪
昨今の教員の方は夜遅くまで本当にがんばってらっしゃいます。中学生も塾と部活と学校に大忙しです。政治家だって国のことを真剣に考えている人はたくさんいるはずです。ただ、批判ばかりされて、ねぎらってもらえなければ、子どもも大人もがんばれません。
先日、都内で8つの病院に救急搬送を断られた妊婦が脳内出血で死亡した問題がありましたが、その夫は、誰も責める気はない、妻が浮き彫りにしてくれた問題を、力を合わせて改善してほしい、と訴えていました。
欠点ばかりを指摘し責任をなすり付け合うのではなく、協力して改善していく。そして、日々がんばっている人に注目する目を養いたいものです。その中で子どもたちがモデルとする人物像や社会規範ができてくるからです。長所を伸ばせば短所は短くなっていきます。相手を信頼して、ちょっとねぎらいの言葉をかけるだけで、子どもも社会もすくすく育っていくことでしょう。明るいニュースはみんなで作るものですね。