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夢の島と宝の探し方
将来やりたい仕事が見つからず、大学で何を専攻していいのかわからず、進路に漠然とした不安を抱えている人もいると思います。社会人として自立することは、故郷や実家という港を離れて船出するようなものですが、航海の旅をするにあたって後悔しないために、今ここでできることは何なのでしょうか。
自分自身を知る
将来の進路(航路)を決める際には、自分自身と身の回りのことをもっとよく知る必要があります。どんな能力があって(操縦技術)、何が好きで(方向性)、どのような環境(船の性能や整備状況)にあるのかを分析することです。
能力は遺伝的なものもあれば、今までの生活で培ってきたものもあります。「好きこそものの上手なれ」というように何に興味があるかによって、今後の方向性だけではなくモチベーション(動機付け)も決まってきます。モチベーションはいわば船のエンジンであり、原動力になるものです。
また、目的地に向かうために、仲間や手助けしてくれる人がいるのか、経済的な基盤はあるのか、人脈的にも金銭的にもその環境をこれから作っていけるのかを考えます。つまり、夢の実現は「夢の実現=能力×興味×環境」で解いてみることで、自分が航海の旅に出るための必要なものを揃えておくことができます。
目的地を設定する
旅の準備ができたら、目指す目的地(夢の島)を決めます。夢や目標がない人生というのは、目的地や地図のない旅に出るようなものです。「船を漕いでもっと早く前に進みなさい」と言われても、目指す方向がわからなければ、前に進む意欲も力も湧かず、大風が吹けばすぐに漂流してしまいます。
そこで、まずはどこに向かって進んだらよいのか、漠然とでもいいので方向性を決めていきます。文系か理系か、頭を使う仕事か身体を使う仕事か、人を相手にする仕事か物を相手にする仕事か、お金になる仕事か人のためになる仕事か、どんな仕事をしているときに自分が輝けるのか、将来のビジョンを思い描いていきます。たとえ最初はぼやけた地図であっても、少しずつリアリティのある地図を作ることで、目指す夢の島がはっきり見えてきて、逆風に立ち向かう力もついてきます。
好奇心という羅針盤
そして、航海の旅に出たときに必要になるのは羅針盤です。いざ出港しても、自分が向かっている方向がそれでいいのか不安になることがあるかもしれません。世間の風当たりが強く、嵐に遭遇したとき、航路を外れてしまうこともあります。そのような向かうべき目的地や航路がわからなくなっても、軌道修正をしてくれるのが好奇心という羅針盤になります。
「計画された偶発性理論」のクランボルツ博士によると、人生の選択に影響を与えた重要な出来事の80%は、偶然によって起こっているそうです。そして、その偶然に出会うには、自分の好奇心のままにとにかく行動を起こすことが大切であるとのことです。それは端的に言えば、「犬も歩けば棒に当たる」ということです。
夢が見つからないと嘆くのではなく、好奇心という羅針盤によって、宝島を探索しながらとにかく行動していれば、意味のある偶然、つまり、夢の島への手がかりや道しるべに出会えるのです。興味や好奇心のままに取り組むことで、夢の島に近づくことができます。
宝は掘り出すもの
ようやく目的の夢の島に到着したのはいいけれど、夢も叶えれば現実になります。夢だった仕事についてみたものの幻滅したり、挫折や苦労を経験したりして、自分が求めていた宝がその島にはなかったと思う人もいるかもしれません。
しかし、京セラの創業者である稲盛和夫氏は「天職は見つけるものではなく作り出すもの」と述べているように、たとえ一目ぼれする仕事もあったとしても、実際に体験して続けてみないと、その仕事が本当に好きになれるかどうかはわかりません。最初から魅力的な職業はひとつもなく、その仕事に打ち込んでいくうちに魅力は出てくるものです。
つまり、目指す島にたどり着いたら、その地を深く掘っていくことで、やがて宝を掘り出すことができます。どんな仕事でもとことん掘り下げて追求していくことで、新たな発見が生まれます。受験や入社試験に受かれば終わりではなく、そこからが本当の宝探しになります。自分の探究心や好奇心を大切にして、目の前にある課題に打ち込み続けることが、大きな宝物を手にすることにつながるでしょう。